2023年12月、大谷翔平選手はドジャースと10年7億ドルで契約しました。ただし、契約期間中の2024〜2033年に受け取る現金は、毎年わずか200万ドルです。残りの6億8,000万ドルは、契約が終わった後の2034〜2043年に後払いされます。契約の「3つの金額」、支払いの時系列、年俸以外の条項、そしてソト選手の契約との比較を、報道を基に紐解きます。
※本記事の契約内容は、AP通信の報道(NBC Sports)、CBS Sportsが報じた2023年12月時点の情報と、ESPN、MLB公式サイトの報道を基にまとめています。
契約の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 契約 | ドジャースと10年7億ドル(2023年12月に合意) |
| 契約期間 | 2024〜2033年(10年) |
| 名目の年俸 | 毎年7,000万ドル |
| 契約期間中に受け取る現金 | 毎年200万ドル(10年で2,000万ドル) |
| 後払い | 毎年6,800万ドル(総額6億8,000万ドル) |
| 後払いの支払い時期 | 2034〜2043年の毎年7月1日、利子なし |
| オプトアウト | 通常のものはなし(ただし、キーマン条項あり) |
AP通信によると、毎年の年俸7,000万ドルのうち6,800万ドルが後払いで、利子はつかず、2034〜2043年の毎年7月1日に同額ずつ支払われます。10年間で大谷選手が受け取る現金は2,000万ドルにとどまります。
契約の「3つの金額」
この契約は、見る基準によって、年あたりの金額が3通りに変わります。
| 基準 | 年あたりの金額 | 使われる場面 |
|---|---|---|
| 名目の年俸(年平均額) | 7,000万ドル | 契約総額、「史上最高額」といった見出し |
| 現金ベース | 200万ドル | 選手が実際に受け取る額(2024〜2033年) |
| ぜいたく税上の評価額 | 約4,600万ドル | 球団のぜいたく税の計算 |
ぜいたく税上の評価額が低い理由
MLBのぜいたく税(競争均衡税)は、契約の年平均額を基準に計算します。後払いがある場合、労使協定により、後払い分は連邦の中期金利で割り引いた「現在価値」で評価されます。その結果、7億ドルの契約は、ぜいたく税の計算上は約4.6億ドル(年平均で約4,600万ドル)として扱われます。
7,000万ドルのまま計算された場合と比べると、税の対象額は年間約2,400万ドル小さくなる計算です。
ぜいたく税は、球団の税上の総年俸が基準額(2024年は2億3,700万ドル)を超えたときに、超えた分へかかります。税率は、初年度が20%、連続2年目が30%、3年目以降が50%で、超過額が大きいほど課徴金も加わります。
支払いの時系列
| 期間 | 内容 | 年あたりの受取額 | 期間の合計 |
|---|---|---|---|
| 2024〜2033年(契約期間・10年) | 現金の年俸 | 200万ドル | 2,000万ドル |
| 2034〜2043年(契約終了後・10年) | 後払い分(毎年7月1日) | 6,800万ドル | 6億8,000万ドル |
| 合計 | 7億ドル |
お金の流れは、契約期間の10年が終わった後も、さらに10年間続きます。2024年から2043年まで、合わせて20年にわたって、ドジャースから大谷選手への支払いが行われます。
なぜ後払いにしたのか
大谷選手の提案だった
代理人のネズ・バレロ氏によると、後払いは大谷選手本人のアイデアでした。ぜいたく税の評価額を下げて、ドジャースがチームを強化する余裕を残すことが狙いです。CBS Sportsは、ドジャースがベッツ選手、フリーマン選手、大谷選手の3人のスターを軸に、補強を続けられるようにするためだったと報じています。
ベッツ選手とフリーマン選手の契約にも後払いが含まれており、AP通信によると、3人の後払いの合計は、2033〜2044年にかけて8億5,700万ドルにのぼります(2023年12月時点)。
AP通信は、この後払いの構造が、球団に給与面の柔軟性をもたらすと報じていました。実際にドジャースは、同じオフに山本由伸投手と12年3億2,500万ドルで契約しています。
年俸以外の条項
年俸の構造のほかにも、契約にはいくつかの条項があります。報道で確認できるのは、次の内容です。
オプトアウトは原則なし、例外はキーマン条項
ESPNの報道を引用したCBS Sportsの記事によると、この契約には、選手側が途中で契約を破棄できる通常のオプトアウトも、契約を延長するオプションの年も含まれていません。
例外が、キーマン条項です。ケン・ローゼンタール記者は、ドジャースの特定の人事に変更があった場合、大谷選手がそのシーズン終了後に契約を破棄できると報じています。CBS Sportsが引用するAP通信の報道では、対象は、編成の責任者であるアンドリュー・フリードマン氏と、筆頭オーナーのマーク・ウォルター氏です。どちらか一方が役割を失った時点で、発動します。詳細は、キーマン条項の記事で扱っています。
そのほかの条項
ローゼンタール記者の報道では、大谷選手は、ドジャースの慈善団体へ寄付を行うことになっており、金額は1%を超えない範囲とされています(何の1%かは、報道では明記されていません)。また、本拠地の専用スイートと、球団が用意する通訳も、契約に含まれています。
ソト選手の契約との比較
契約総額では、2024年12月に、フアン・ソト選手がメッツと15年7億6,500万ドルで契約し、大谷選手の記録を更新しました。ただし、年あたりの金額は、見る基準で順位が入れ替わります。
| 項目 | 大谷翔平(ドジャース) | フアン・ソト(メッツ) |
|---|---|---|
| 契約 | 10年7億ドル | 15年7億6,500万ドル |
| 名目の年平均額 | 7,000万ドル | 5,100万ドル |
| ぜいたく税上の年平均額 | 約4,600万ドル | 5,100万ドル |
| 後払い | 総額の約97% | なし |
MLB公式サイトは、フリーエージェント契約の名目の年平均額では、大谷選手が7,000万ドルで最高、ソト選手が5,100万ドルで2位と整理しています。一方、ESPNによると、ソト選手の契約には後払いがなく、現在価値では大谷選手を大きく上回ります。「総額」「名目の年平均額」「現在価値」のどの基準で比べるかによって、「最高額」の答えは変わります。
契約3年間の実績
2024年から2026年の3シーズンは、すべて現金ベース200万ドルの年です。各シーズンの成績で年俸を割った記事を用意しています。
| シーズン | 打席 | 本塁打 | 盗塁 | 投手としての登板 | 記事 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2024年 | 731 | 54 | 59 | なし | 2024年シーズンの記事 |
| 2025年 | 727 | 55 | 20 | 14先発・47回・62奪三振 | 2025年シーズンの記事 |
| 2026年 | 618 | 30 | 11 | 14先発・85回2/3・95奪三振 | 2026年シーズンの記事 |
読むときの注意点
- 契約内容は、2023年12月当時の報道(AP通信、The Athletic、ESPNなど)を基にしています。球団や選手会が全文を公表した資料ではありません。
- ぜいたく税上の評価額は、割引に使う金利で変わります。 本記事の「約4,600万ドル」は、契約当時の報道値です。
- キーマン条項の細かい条件は、報道ごとに表現が異なります。 本記事は、AP通信とCBS Sportsの記述に基づいています。
【まとめ】早見表
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 契約 | 10年7億ドル(2024〜2033年) |
| 契約期間中の現金 | 毎年200万ドル(10年で2,000万ドル) |
| 後払い | 総額6億8,000万ドル(毎年6,800万ドルを2034〜2043年に、毎年7月1日、利子なし) |
| ぜいたく税上の評価額 | 約4,600万ドル/年(現在価値で約4.6億ドル) |
| 後払いを提案したのは | 大谷選手本人(代理人の説明) |
| オプトアウト | 通常のものはなし(キーマン条項のみ) |
| 契約総額の最高額 | ソト選手(15年7億6,500万ドル)が更新 |
| 名目の年平均額 | 大谷選手が最高(7,000万ドル) |
個人的に興味深いのは、後払いが「大谷選手の提案」であり、その背景にスポンサー収入の大きさがある点です。球団から受け取る現金は年200万ドルでも、2026年のスポンサー収入は約1億2,500万ドルに達する見込みで、収入の大半は球団の外から入ってきます。契約の金額だけを見ると「7億ドル」という数字ばかりが目立ちますが、3つの金額に分けて見ると、この契約が、選手にとっても球団にとっても、きわめて計算された設計であることが見えてきます


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