MLBは、北米の4大プロスポーツで、唯一、サラリーキャップがありません。2026年、オーナー側は、MLB史上初となるサラリーキャップを提案し、労使交渉の最大の争点になっています。サラリーキャップの基本的な仕組みと、MLBに導入されてこなかった理由は、サラリーキャップとはで扱っています。本記事では、MLBの提案を、NBA・NFL・NHLの制度と並べて、上限、下限、選手の取り分、例外の有無を比べます。
※本記事の数字は、2026年10月時点で、MLB公式サイト、ESPN、RealGMなどの報道を基にまとめています。各リーグの金額は、毎年変わります。
ハードキャップとソフトキャップ
サラリーキャップは、「上限を超えられるか」で、2種類に分かれます。
| 種類 | 内容 | 採用しているリーグ |
|---|---|---|
| ハードキャップ(hard cap) | 上限を超えられない。例外はほとんどない | NFL、NHL |
| ソフトキャップ(soft cap) | 例外を使って上限を超えられるが、ぜいたく税や、契約上の制限がかかる | NBA |
| 上限なし+ぜいたく税 | 上限はなく、基準額を超えた分に課税される | MLB(現行) |
NFLとNHLはハードキャップ、NBAはソフトキャップです。NBAでは、基準額を超えた球団は、ぜいたく税を払うだけでなく、「エプロン(apron)」と呼ばれる、さらに上の基準額を超えると、補強の方法が制限されます。MLBは、現行の制度では上限がなく、ぜいたく税(CBT)の基準額を超えた分に、課税されます。
4リーグの比較(2026年)
| 項目 | MLB(現行) | MLB(提案) | NBA | NFL | NHL |
|---|---|---|---|---|---|
| 種類 | 上限なし、ぜいたく税 | ハードキャップ | ソフトキャップ | ハードキャップ | ハードキャップ |
| 上限(キャップ) | なし | 2億4,530万ドル(2027年) | 約1億6,496万ドル(2026-27年) | 3億120万ドル(2026年) | 1億400万ドル(2026-27年) |
| 下限(フロア) | なし | 1億7,120万ドル | 約1億4,900万ドル(報道ベースの予測) | キャップの90%(複数年の累計) | 7,690万ドル |
| 選手の収益の取り分 | 規定なし | 50%(保証案) | 約51% | 約48.5〜48.8% | 50% |
| エスクロー(給与の一部の留保) | なし | 最大10% | 10% | 報道では確認できず | あり |
出典は、MLBの提案がMLB公式サイトとRealGM、NFLのキャップがESPN、NBAのキャップがSports Management Worldwide、NBAのフロアがYahoo Sports(AOL経由)、NHLがNHL Trade Rumors Talkです。なお、NBAのフロアは、報道ベースの予測です。MLBの現行制度でぜいたく税の基準額は、2026年で2億4,400万ドルです。
MLBが提案している内容
2026年5月28日、MLBは、2027年を初年度とするサラリーキャップの提案を出しました。上限(キャップ)が2億4,530万ドル、下限(フロア)が1億7,120万ドルで、上限を超えられない、ハードキャップです。
提案の特徴は、次の通りです。
- 選手に、リーグ全体の収益の50%を保証する(NFL・NBA・NHLの制度と、ほぼ同水準)
- 給与の一部を留保するエスクロー(escrow)を、最大10%で導入する
- 上限に、例外や柔軟性を認めない
ESPNは、MLBの提案が、上限に柔軟性を認めない点で、NFLの制度と共通していると分析しています。一方で、NFLの制度全体とは大きく異なるとも指摘しています。NBAは、ぜいたく税とエプロンの仕組みで、上限を超える余地が残り、NHLは、長期故障者リスト(LTIR)を使って、上限を超えられます。RealGMは、MLBの提案が、4リーグの中ではNHLに最も近いと報じる一方、エスクローの導入は、労使交渉の中心的な争点になっていると伝えています。
導入の経緯
NHLは、2004-05シーズンが、ロックアウトで丸ごと中止になった後、2005-06シーズンにハードキャップを導入しました。MLBのオーナー側が、サラリーキャップを正式に提案したのは、1994〜95年のストライキ以来のことです。当時の経緯は、サラリーキャップとはで扱っています。
MLB側と選手会側の主張
| 立場 | 主張 |
|---|---|
| MLB(オーナー側) | 2005年以降の選手の報酬の伸びは、NFLが252%、NBAが233%、NHLが167%、MLBが135%で、サラリーキャップのあるリーグのほうが高い。ファンの調査でも、サラリーキャップを支持する声が多い |
| 選手会 | サラリーキャップは、選手の取り分を抑える制度だと反対。エスクローも争点になっている。MLBの提案が2026年にあてはまると、選手は5億ドル以上を失うと推計 |
MLB側の数字は、MLB公式サイトの説明に基づきます。同サイトは、2025年11月の調査(Morning Consult)で、熱心なMLBファンの79%、普通のファンの69%が、サラリーキャップを支持したとしています。なお、これらはMLB側の主張で、選手会の見方は異なります。選手会のブルース・メイヤー暫定事務局長は、6月1日、サラリーキャップを「制度化された談合」と批判しました。
導入された場合の影響
CBS Sportsの試算(ぜいたく税基準額ベース)では、現時点で、上限を超えるのが9球団、下限に届かないのが12球団です。2026年のワールドシリーズに進んだブリュワーズとレイズも、Cot’s Contractsのぜいたく税基準額で見ると、いずれも下限(1億7,120万ドル)を下回ります。詳しくは、2026年版の労使交渉の記事で扱っています。
読むときの注意点
- 金額は、2026年10月時点の報道に基づきます。各リーグのキャップは、毎年変わります。
- MLBの提案は、あくまで提案です。選手会は受け入れていません。
- NBAのフロアは、報道ベースの予測です。また、NBAの選手の取り分(約51%)は、RealGMの1つの記事に基づきます。
- NFLのエスクローは、今回確認した報道の中では、触れられていません。
【まとめ】早見表
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 4大リーグの現状 | NFLとNHLはハードキャップ、NBAはソフトキャップ。MLBだけが上限も下限もない |
| ハードキャップ | 上限を超えられない(NFL、NHL) |
| ソフトキャップ | 例外を使って超えられるが、制限がある(NBA) |
| MLBの現行制度 | 上限なし。基準額を超えるとぜいたく税 |
| MLBの提案 | ハードキャップ。上限2億4,530万ドル、下限1億7,120万ドル(2027年) |
| 選手の取り分 | MLBの提案は50%。NBA約51%、NFL約48.5〜48.8%、NHL50% |
| NHLの導入 | 2004-05シーズンの丸ごとのロックアウトを経て、2005-06シーズンに導入 |
個人的に興味深いのは、「ハードキャップ」と一口に言っても、NFLは、収益に連動して上限が上がり、NHLは長期故障者リストで上限を超えられるなど、細かい仕組みがリーグごとに全く違う点です。MLBの提案は、上限に例外を認めないぶん、選手会が警戒するのも、うなずけます。どの制度に近づけるのかは、これから決まっていくので、注意深く見ていきたいと思います。


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