ポスティングシステムとは、日本のプロ野球(NPB)に所属する選手が、フリーエージェント(FA)の資格を得る前に、MLB球団と契約できるようにする制度です。選手と契約したMLB球団は、選手本人への年俸とは別に、日本の所属球団へ「譲渡金(リリース・フィー、release fee)」を支払います。2026年オフには、阪神の佐藤輝明選手と、西武の平良海馬投手が、この制度でMLBへ移籍する見込みです。譲渡金の計算方法、移籍の流れ、直近の実例を、MLB公式サイトの資料を基に整理します。
※本記事の制度の内容は、MLB公式サイトの用語集、2018年の合意の発表などを基にまとめています。契約や譲渡金の数字は、各選手の契約時の報道に基づきます。
ポスティングシステムとは
NPBの選手は、一定の年数をプレーすると、FAとして海外のMLBへ移れる権利(海外FA権)を得ます。この権利を得る年数は、およそ9年とされています。それより前にMLBへ移りたい場合に、所属球団に申請して、ポスティングの手続きに入るのが、この制度です。MLB公式サイトは、NPBで9年未満の選手が、国際FAになるには、所属球団にポスティングを申請する必要があると説明しています。
選手がポスティングされると、MLBの全30球団が、その選手と交渉できます。契約が決まった球団は、日本の所属球団に、譲渡金を支払います。サッカーの移籍金に近い仕組みです。
譲渡金の計算方法
譲渡金は、契約の保証額の総額に応じて、次のように決まります。MLB公式サイトの用語集によると、計算式は、次の通りです。
| 契約の保証額 | 譲渡金 |
|---|---|
| 2,500万ドル以下 | 総額の20% |
| 2,500万ドル超〜5,000万ドル | 最初の2,500万ドルの20%+超えた分の17.5% |
| 5,000万ドル超 | 最初の2,500万ドルの20%(500万ドル)+次の2,500万ドルの17.5%(437.5万ドル)+5,000万ドルを超えた分の15% |
| マイナー契約 | 契約金の25% |
契約の規模ごとの譲渡金は、次のようになります(当サイトの計算値)。
| 契約の保証額 | 譲渡金 | 契約に対する割合 |
|---|---|---|
| 2,500万ドル | 500万ドル | 20.0% |
| 5,000万ドル | 937.5万ドル | 18.8% |
| 1億ドル | 1,687.5万ドル | 16.9% |
| 3億2,500万ドル | 5,062.5万ドル | 15.6% |
契約が大きいほど、最後の部分に低い15%がかかるため、契約に対する譲渡金の割合は、下がっていきます。
ボーナスやオプションにも追加の譲渡金がかかる
契約に、出来高やオプションが含まれる場合は、追加の譲渡金が発生します。2018年の合意では、実際に支払われた出来高や年俸の増額分、行使された(または権利が確定した)オプション年の報酬の、15%が、あとから支払われます。
移籍の流れ
- 球団への申請:海外FA権を得る前の選手は、所属球団に、ポスティングを申請します。球団が認めれば、手続きに入ります。
- ポスティングの公表:ポスティングできる期間は、2018年の合意で、毎年11月1日から12月5日までとされました。
- 45日間の交渉期間:MLBの全30球団が、45日間、選手と交渉できます。
- 契約の合意:契約が決まると、MLB球団が、日本の所属球団へ譲渡金を支払います。
- 合意がない場合:選手は日本の所属球団に戻り、翌年のオフまで、再びポスティングされることはありません。
25歳未満の選手は、契約が制限される
25歳未満で、海外のリーグでのプレー歴が6年未満の選手は、ポスティングの手続きは必要ですが、国際アマチュア選手のボーナス総額の制限を受けます。このため、契約金は、球団ごとの枠の中に収まる範囲に限られます。大谷翔平選手も、2017年オフに23歳でポスティングされたため、この制限を受け、エンゼルスとの契約は、231.5万ドルにとどまりました。佐々木朗希投手が、ドジャースとマイナー契約を結び、契約金が650万ドルにとどまったのは、この制限があったためです。
直近の実例
| 選手 | 契約 | 譲渡金 | 日本球団 |
|---|---|---|---|
| 山本由伸(ドジャース、2023年オフ) | 12年3億2,500万ドル | 約5,062万ドル(計算値) | オリックス |
| 村上宗隆(ホワイトソックス、2025年オフ) | 2年3,400万ドル | 657.5万ドル | ヤクルト |
| 岡本和真(ブルージェイズ、2025年オフ) | 4年6,000万ドル | 1,087.5万ドル | 巨人 |
| 今井達也(アストロズ、2025年オフ) | 3年5,400万ドル | 997.5万ドル | 西武 |
山本投手の譲渡金は、EssentiallySportsが約5,060万ドル、FanSidedが約5,065万ドルと、報じています。制度の計算式(500万ドル+437.5万ドル+2億7,500万ドルの15%)では、5,062.5万ドルになります。(日本球団への譲渡金として歴代最高額)
今井投手のケース:契約より、実際のコストは大きい
今井投手の契約は、3年5,400万ドル(2026年と2027年の終了後に、オプトアウトが可能)で、譲渡金は997.5万ドルです。MLBトレード・ルーモアズによると、アストロズが負担する額は、契約と譲渡金を合わせて約6,398万ドルです。今井投手が最初の1年でオプトアウトした場合、アストロズが1年の起用に払う額は、約2,798万ドルになります。
譲渡金は、ぜいたく税の計算に入らない
FanGraphsは、ポスティングの譲渡金が、ぜいたく税の計算に含まれないと指摘しています。球団にとっては、契約の金額と並んで、実質的な負担になる一方で、税の対象にはならない費用です。ぜいたく税の仕組みは、ぜいたく税の記事で扱っています。
制度の変遷
現在の制度になる前は、譲渡金の上限が2,000万ドルでした。大谷翔平選手が2017年オフにポスティングされた際、日本ハムが受け取った2,000万ドルは、旧制度で認められていた最高額です。この方式は、2018年11月1日から、契約額に応じた段階的な計算式に変わりました。
大谷翔平選手のケース(旧制度)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ポスティング | 2017年オフ(23歳) |
| 日本球団が受け取った譲渡金 | 2,000万ドル(旧制度の上限) |
| 交渉期間 | 21日間 |
| MLB球団との契約 | エンゼルス。国際アマチュア選手の制限を受け、231.5万ドル |
2023年オフにドジャースと結んだ10年7億ドルの契約は、すでにMLBでプレーした選手が結ぶフリーエージェント契約のため、ポスティングの対象ではなく、日本の球団への譲渡金は発生しません。契約の中身は、大谷翔平とドジャースの契約の記事で扱っています。
2026年オフのポスティング
MLB公式サイトのマーク・フェインサンド(Mark Feinsand)記者は、佐藤輝明選手(阪神)と平良海馬投手(西武)が、ポスティングでMLBへ移る見込みだと伝えています。2025年にセ・リーグMVP、今季は三冠王の佐藤選手は、同記者が選んだ今オフの注目選手トップ30で、4位にあげられています。
読むときの注意点
- 制度の内容は、MLB公式サイトの資料に基づきます。 ポスティングの期間などは、2018年の合意の発表を基にしており、その後の合意で変わった可能性があります。
- 譲渡金は、報道された金額と、計算式による金額で、わずかに違う場合があります。 今井投手のケースでは、AP通信の続報の一部に、計算式と合わない金額(967.5万ドル)が書かれていましたが、初報とMLBトレード・ルーモアズは、計算式どおりの997.5万ドルです。
- 山本投手の譲渡金は、報道ごとに、わずかに数字が異なります。 本記事の表には、制度の計算式による5,062.5万ドルを載せています。
【まとめ】早見表
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| ポスティングシステム | NPBの選手が、海外FA権の前にMLBへ移るための制度 |
| 譲渡金 | MLB球団が、日本の所属球団へ支払う。保証額の20%(最初の2,500万ドル)、17.5%(次の2,500万ドル)、15%(5,000万ドル超) |
| 追加の譲渡金 | 出来高、昇給、オプション年の報酬の15% |
| 交渉期間 | 45日間 |
| 不成立の場合 | 日本の球団に戻り、翌年のオフまで再ポスティング不可 |
| 25歳未満 | 国際アマチュア選手のボーナス枠の制限を受ける |
| 直近の実例 | 村上657.5万ドル、岡本1,087.5万ドル、今井997.5万ドル |
個人的に興味深いのは、ポスティングが、選手が自分の意思で動ける制度というより、「所属球団が認めれば」という前提で成り立っている点です。同じ譲渡金でも、契約が大きくなるほど、割合が下がる仕組みは、日本の球団にとっては、必ずしも有利ではありません。それでも、毎年のように日本人選手が海を渡るのは、MLBの契約の大きさが、その差を上回るからだと感じます。また個人的には山本由伸投手のケースはいい例だと思っています。譲渡金の約5,063万ドルは、現行制度では最高額でしたが、移籍後の活躍は、その金額を上回るものだと、個人的には感じます。

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