後払い(ディファード)契約とは、選手の年俸の一部を、契約期間の後など、将来の時点に支払う契約です。ドジャースは、2025年12月時点で、9人の選手に総額約10億6,450万ドルの後払いを抱えており、支払いは2047年まで続きます。仕組み、球団と選手それぞれの狙い、ぜいたく税での扱い、そして2026年の労使交渉で焦点になっている点を、実例とともに紐解きます。
※本記事の契約内容と数字は、ESPN、AP通信(NBC Sports)、CBS Sports、MLB公式サイト、Yahoo Sportsなどの報道を基にまとめています。
後払い契約とは
後払い契約は、契約書に書かれた年俸のうち、一部をその年に払わず、あとで払う契約です。MLBでは、支払い日が7月1日に設定されることが多く、CBS Sportsは、多くの契約金や後払いの給与が、7月1日に支払われると伝えています。
たとえば、2015年にナショナルズがマックス・シャーザー投手と結んだ7年2億1,000万ドルの契約は、毎年の年俸の半分を後払いにする内容でした。後払いの総額は、1億500万ドルで、2028年まで支払いが続きます。
支払いの仕組み:利子の有無で受取額が変わる
後払いには、利子がつくものと、つかないものがあります。代表例の2つを並べます。
| 選手 | 後払いの内容 | 支払い時期 | 利子 |
|---|---|---|---|
| 大谷翔平(ドジャース) | 6億8,000万ドル | 2034〜2043年の毎年7月1日 | なし |
| ボビー・ボニーヤ(メッツ) | 590万ドル(総額約2,980万ドル) | 2011〜2035年の毎年7月1日 | 年8% |
大谷選手の後払いは、AP通信によると、利子がつかず、同額が毎年支払われます。一方、ボニーヤ氏の後払いは、年8%の利子がつく契約で、590万ドルが約5倍の約2,980万ドルになります。詳しくは、後述の「ボニーヤ・デー」で扱います。
なぜ後払いにするのか
球団の狙い
球団にとっての最大の利点は、ぜいたく税の評価額が下がることです。後払いの分は現在価値に割り引いて計算されるため(次の章で詳しく扱います)、同じ選手を、より少ない税負担で抱えられます。
支払いを先送りできる点も、利点の一つです。CBS Sportsは、ドジャースが、大谷選手の後払い分から利子を得られると指摘しています。AP通信も、大谷選手の後払いが、球団に給与面の柔軟性をもたらすと報じていました。
選手側の狙いと条件
選手にとっては、チームの補強余力を高められることが、一つの狙いです。大谷選手の代理人によると、後払いは大谷選手本人のアイデアでした。
利子がつく契約では、受取総額が増えます。ボニーヤ氏のケースが典型です。また、ほかに大きな収入がある選手は、現金を抑えやすくなります。CBS Sportsは、大谷選手のスポンサー収入の大きさが、後払いに踏み切れた背景にあると指摘しています。
一般に指摘されるデメリット
利子がつかない場合、将来受け取るお金の価値は目減りします。大谷選手の契約は、ぜいたく税の計算上、現在価値で約4.6億ドルとして扱われます。また、選手は、長期間にわたって球団が支払いを続けることを前提にすることになります。
球団にとっては、将来の支払い義務が積み上がる点が課題です。ドジャースの後払いは、次に挙げる通り、10億ドルを超えています。
ぜいたく税での扱い:後払いは「現在価値」で計算される
ぜいたく税(CBT)は、契約の年平均額を基準に計算されます。後払いがある契約では、労使協定により、後払い分は、あらかじめ決められた金利で割り引いた現在価値で評価されます。AP通信によると、2023年オフに結ばれたすべての契約には、同年10月の金利である4.43%が適用されました。
割引に使う金利は、契約を結んだオフシーズンごとに決まります。MLBトレード・ルーモアズが引用する労使協定の条文では、契約の初年度に対応する金利を使うとされています。そのため、大谷選手の契約と、2026年1月に結ばれたタッカー選手の契約では、割引率が異なる可能性があります。
後払いの割合が大きいほど、ぜいたく税上の年平均額は、名目の年平均額より小さくなります。
| 契約 | 名目の年平均額 | ぜいたく税上の年平均額 | 後払いの割合 | 減り幅 |
|---|---|---|---|---|
| 大谷翔平(10年7億ドル) | 7,000万ドル | 約4,600万ドル | 約97% | 約34% |
| マックス・シャーザー(7年2億1,000万ドル) | 3,000万ドル | 約2,640万ドル | 50% | 約12% |
| カイル・タッカー(4年2億4,000万ドル) | 6,000万ドル | 約5,710万ドル | 12.5% | 約5% |
出典は、大谷選手がAP通信、シャーザー投手がCBS Sports、タッカー選手がYahoo Sportsです。タッカー選手は、4年2億4,000万ドルのうち3,000万ドルを後払いにしています。「減り幅」は、名目の年平均額とぜいたく税上の年平均額から、当サイトで計算した値です。
ドジャースの後払い一覧
AP通信の配信記事を載せたESPNによると、ドジャースは、エドウィン・ディアス投手の契約後の2025年12月時点で、9人の選手に総額10億6,450万ドルの後払いを負っています。
| 選手 | 後払い額 | 支払い期間 |
|---|---|---|
| 大谷翔平 | 6億8,000万ドル | 2034〜2043年 |
| ムーキー・ベッツ | 1億2,000万ドル(年俸1億1,500万ドル、契約金の一部500万ドル) | 2033〜2044年(契約金分は2033〜2035年) |
| ブレイク・スネル | 6,600万ドル | 2035〜2046年 |
| フレディ・フリーマン | 5,700万ドル | 2028〜2040年 |
| ウィル・スミス | 5,000万ドル | 2034〜2043年 |
| テオスカー・ヘルナンデス | 3,200万ドル | 2030〜2039年 |
| トミー・エドマン | 2,500万ドル | 2037〜2044年 |
| タナー・スコット | 2,100万ドル | 2035〜2046年 |
| エドウィン・ディアス | 1,350万ドル(毎年450万ドル×3年) | 2036〜2047年 |
| 合計 | 10億6,450万ドル | 2047年まで |
大谷選手の6億8,000万ドルは、全体の約64%を占めます。この表に、2026年1月に加わったカイル・タッカー選手の後払い3,000万ドル(支払い時期は報道では明確でない)を加えると、約10億9,450万ドルになります(当サイトの計算)。
ボニーヤ・デー:最も有名な後払い
7月1日は、MLBで「ボニーヤ・デー」と呼ばれています。メッツが、元選手のボビー・ボニーヤ氏に、毎年この日に支払いをするためです。
メッツは2000年1月にボニーヤ氏を解雇しましたが、その年の年俸590万ドルの支払い義務が残っていました。メッツは、この年俸を一括で払う代わりに、2011〜2035年の25年間、毎年約119万ドルを支払う契約に切り替えました。年8%の利子がついています。毎年の支払額は1,193,248ドル20セントで、総額は約2,980万ドルです。
当時のメッツのオーナーは、投資家バーナード・マドフ氏への投資で大きな運用益が出ると見込んでいたため、この形の後払いに応じたと、CBS Sportsが報じています。
2026年の労使交渉:後払いの禁止が提案された
後払いは、2026年の労使交渉の焦点の一つです。2026年6月25日(木曜日)、MLBは、新たな契約には後払いを一切認めないことを、選手会へ提案しました。MLB公式サイトによると、現在すでに結ばれている後払い付きの契約は、この変更の対象外です。
この提案は、サラリーキャップ(年俸総額の上限)の導入を求める提案とあわせて出されました。選手会は、同じ日のうちに、この提案を拒否しています。現在の労使協定は2026年12月1日に失効するため、結論は、年末までの交渉に持ち越されます。ロックアウトの可能性を含む全体の状況は、ロックアウトの記事で扱っています。
用語メモ
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 後払い(ディファード) | 年俸の一部を、将来の時点に支払うこと |
| 現在価値 | 将来受け取るお金を、現在の価値に直した金額 |
| 年平均額(AAV) | 契約総額を、契約年数で割った金額 |
| ぜいたく税(競争均衡税) | 球団の税上の総年俸が基準額を超えたときに、課される税 |
読むときの注意点
- 後払いの総額は、2025年12月時点の報道値です。2026年1月のタッカー選手の契約など、その後の契約で変わります。
- ぜいたく税上の年平均額は、報道値です。割引に使う金利で変わります。
- 労使交渉の内容は、2026年6月25日の提案時点の情報です。交渉の中で変わる可能性があります。
【まとめ】早見表
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 後払い契約 | 年俸の一部を、将来の時点に支払う契約 |
| 支払い日 | 多くが毎年7月1日 |
| 利子 | ある契約(ボニーヤ氏:年8%)とない契約(大谷選手)がある |
| ぜいたく税での扱い | 現在価値に割り引いて評価され、後払いの割合が高いほど、評価額は下がる |
| ドジャースの後払い総額 | 約10億6,450万ドル(9人、2047年まで。2025年12月時点) |
| 大谷選手の後払い | 6億8,000万ドル(総額の約64%) |
| 2026年の労使交渉 | MLBが新規契約の後払い禁止を提案。現在の契約は対象外 |
個人的に面白かったのは、同じ「後払い」でも、中身がまったく違う点です。ボニーヤ氏は、年8%の利子で590万ドルが約5倍になった一方、大谷選手は利子がつかず、将来の価値は目減りします。それでも大谷選手が後払いを選べたのは、スポンサー収入という現金の入り口が別にあるからでした。12月1日に向けた交渉で、後払いがどう扱われるのかは、今後の大型契約の組み立て方に関わる論点です。ドジャースを応援している身としては、その行方を、注意深く見ていきたいと思います。


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