2022年シーズンから、クリーブランドのMLB球団は「インディアンス」から「ガーディアンズ」へと名前を変えました。106年間親しまれてきた名称を手放す決断の背景には、長年の人種差別批判と、改名直後に勃発したローラーダービーチームとの商標訴訟という、知られざる舞台裏がありました。
※本記事のデータは、MLB公式サイト、Sports Illustrated、Washington Post、ESPN、CBS Sportsが報じた情報を基にまとめています。
1. 球団史上5代目の名前
クリーブランドの球団は、実は「ガーディアンズ」が初めての改名ではありません。球団創設以来、名称は何度も変遷してきました。
| 期間 | 名称 |
|---|---|
| 1901年 | ブルース |
| 1902年 | ブロンコス |
| 1903〜1914年 | ナップス |
| 1915〜2021年(106年間) | インディアンス |
| 2022年〜現在 | ガーディアンズ |
「ナップス」は当時のスター選手ネイプ・ラジョイ選手にちなんだ愛称でしたが、彼の移籍後の1915年、球団は「インディアンス」へと改称。この名称が、実に106年間にわたって使われ続けることになります。
2. 「インディアンス」という名称を巡る半世紀の論争
「インディアンス」という名称と、マスコット「チーフ・ワフー」のロゴに対する抗議活動は、1970年代から始まっていました。先住民団体を中心に、ネイティブ・アメリカンを揶揄する表現だという批判が長年続きます。
球団も段階的な対応を重ねてきました。2014年には、チーフ・ワフーのロゴをユニフォームの主役から外し、ブロック体の「C」をメインロゴに格上げ。2019年には、チーフ・ワフーのロゴをユニフォームから完全に排除することを発表しました。ただし、一部の先住民団体は「ロゴを引退させるだけでは不十分で、名称自体を変えない限り根本的な解決にはならない」と訴え続けていました。
3. 改名の決定打:2020年の社会的機運
球団が名称変更という最終的な決断に至ったきっかけは、2020年に全米で広がった人種差別への抗議運動でした。球団オーナーのポール・ドーラン氏は、同年5月のジョージ・フロイド氏殺害事件を受けた社会的な機運が、改名への意思を固めさせたと説明しています。
- 2020年12月:球団が「インディアンス」という名称の廃止を発表。2021年シーズンを「インディアンス」最後のシーズンとすることを明言
- 2021年7月23日:新名称「ガーディアンズ」を発表。俳優トム・ハンクス氏がナレーションを務めた動画で公開され、約1,100の候補の中から選定されたことが明かされた
- 2021年11月19日:名称変更が正式に発効
新名称の由来は、球場近くのホープ記念橋の両端に立つ、高さ43フィートのアールデコ様式の石像「ガーディアンズ・オブ・トラフィック(交通の守護神)」です。1932年から街を見守ってきたこの像は、クリーブランドで唯一の公共アールデコ建造物とされています。
4. 【訴訟騒動】同名のローラーダービーチームとの商標紛争
改名発表の直後、思わぬトラブルが球団を待ち受けていました。地元で2013年から活動する、同じ「クリーブランド・ガーディアンズ」という名前のローラーダービーチームとの商標紛争です。
2021年10月27日、このローラーダービーチームが連邦裁判所に提訴し、MLB球団による名称使用の差し止めを求めました。訴状によれば、ローラーダービーチーム側は2017年にオハイオ州務長官へ正式に「クリーブランド・ガーディアンズ」の名称を登録しており、2014年からグッズ販売も行っていたと主張しています。
この訴訟で特に注目されたのが、MLB球団側の商標出願の手法です。球団はまず、アフリカ東部の島国モーリシャスでガーディアンズの名称とロゴの商標出願を行っていました。これは「パリ条約(一国で出願すれば他国でも半年間は優先権を主張できる)」の仕組みを利用し、オンライン検索が容易ではない小国を利用して、発表前に地元チームやメディアに新名称が漏れるのを防ぐための巨大企業特有の法務戦術でした。しかし訴状では、これが「意図的に出願を隠す隠蔽工作だった」と批判されました。
交渉の経緯も訴状で明らかにされています。球団側は6月にローラーダービーチームへ接触し、ユニフォームの写真提供を依頼。その後、権利買い取りを「僅少な金額」で提示しましたが、ローラーダービーチーム側はこれを拒否し、交渉は決裂しました。
ローラーダービーチームのオーナー、ゲイリー・スウェット氏は「スポーツとクリーブランドの街を愛する非営利団体として、長年使ってきた名前を守らざるを得ない状況に追い込まれたことを残念に思う」とコメントしています。商標専門弁護士のマーク・サマーズ氏は、この種の訴訟は「トライアルに進む前に和解で決着することが多い」との見方を示していました。
実際、2021年11月16日、両者は「円満な解決(amicable resolution)」に達し、球団側・ローラーダービーチーム側の双方が今後も「ガーディアンズ」の名称を使用し続けるという形で合意しました。和解金など詳細な条件は公表されていません。
【まとめ】改名に関する早見表
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 球団史上の名称変遷 | ブルース→ブロンコス→ナップス→インディアンス(106年)→ガーディアンズ |
| 改名のきっかけ | 1970年代からの先住民団体による抗議、2020年の社会的機運 |
| 新名称の由来 | ホープ記念橋の石像「ガーディアンズ・オブ・トラフィック」 |
| 新名称の正式決定 | 2021年7月23日発表、約1,100候補から選定 |
| 改名発効日 | 2021年11月19日 |
| 商標トラブル | 同名のローラーダービーチーム(2013年〜活動)との訴訟、2021年11月16日に円満和解 |
10億ドル規模のプロスポーツフランチャイズにおける「リブランディング」は、単なるユニフォームの変更にとどまらず、既存商標とのバッティングや巨額の和解金を伴う高度な法務・ビジネス戦略です。モーリシャスでの極秘出願から、すんでのところでの和解まで、ガーディアンズの改名劇はスポーツビジネスにおける危機管理の重要性を物語るケーススタディとなっています。


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