ミルウォーキー・ブリュワーズの本拠地アメリカン・ファミリー・フィールドは、北米唯一の「扇形開閉式屋根」を備えた球場として知られています。建設中に発生した死亡事故という重い歴史を乗り越えて完成したこの球場の、命名権の変遷と構造的な特徴を解説します。
※本記事のデータは、Ballparks of Baseball、MeetStadium、Greenberg Law Office、Urban Milwaukee、Brewer Fanaticが公表した情報を基にまとめています。
1. 基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | アメリカン・ファミリー・フィールド(American Family Field) |
| 旧名称 | ミラー・パーク(Miller Park、2001〜2020年) |
| 所在地 | ウィスコンシン州ミルウォーキー(1 Brewers Way) |
| 開場 | 2001年4月6日 |
| 収容人数 | 41,900人 |
| 建設費 | 約3億9,200万〜4億ドル |
| 所有者 | 南東ウィスコンシン・プロ野球地区(公的機関) |
| 屋根 | 扇形開閉式(北米で唯一の方式) |
📍 所在地:1 Brewers Way, Milwaukee, WI(Googleマップで見る)
2. 歴史:クレーン倒壊事故という重い代償
1995年12月、ブリュワーズは開閉式屋根を備えた新球場の構想を発表し、1996年に資金計画が承認されました。1996年11月9日に着工し、前本拠地ミルウォーキー・カウンティ・スタジアムで試合を観戦するファンは、外野席の向こうに新球場が少しずつ姿を現す様子を見ることができました。
しかし建設は、球場史に残る悲劇に見舞われます。1999年7月、大型クレーン「ビッグ・ブルー」が屋根部材を吊り上げる作業中に倒壊し、3名の作業員が死亡する事故が発生しました。この事故により球場の一塁側が損壊し、開場は当初予定の2000年から1年延期。ブリュワーズはもう1シーズン、老朽化した旧球場での試合継続を余儀なくされました。
工事は再開され、2001年4月6日、レッズを迎えての開幕戦でついに完成を迎えました。
3. 命名権:ビール会社から保険会社へ
この球場の命名権は、地元ミルウォーキーを象徴する企業から、現在の保険会社へと引き継がれています。
1996年、ブリュワーズとミラー・ブリューイング・カンパニー(地元の大手ビール会社)は20年契約を締結。当時としてはMLB史上最大規模の命名権契約で、総額4,120万ドル(初年度120万ドルを支払い、2000年以降は年間約200万ドル)の契約でした。これにより球場は「ミラー・パーク」と名付けられました。
2020年末にミラー社との契約が満了すると、2019年1月に既に合意していた通り、地元マディソンに拠点を置く保険会社アメリカン・ファミリー・インシュアランスが15年契約(年間約400万ドル、総額約6,000万ドル)で命名権を取得し、2021年シーズンから球場名は「アメリカン・ファミリー・フィールド」となりました。
発表当初、「ビールの街ミルウォーキーの象徴だったミラーの名が消える」ことに難色を示すファンの声も少なくありませんでした。
4. 建設資金:公的資金が約3分の2を負担
建設費約3億9,200万〜4億ドルの資金調達は、公的資金に大きく依存する構造でした。
- 公的資金(約66%): 南東ウィスコンシン地域の消費税を0.1%引き上げる形で捻出
- 民間資金(約34%): ブリュワーズ球団が約9,000万ドルを負担
1996年から2020年にかけて、この地域限定の消費税は総額約6億900万ドルをプロジェクトに拠出したとされ、MLB球場建設史上でも屈指の公費依存度の高いプロジェクトとなりました。
【2023年の追加公費】2050年までのリース延長と約5億ドルの追加支援: 当初の球団とのリース契約は2030年までの予定でしたが、球場の老朽化対応や改修費用を巡る協議が進んだ結果、2023年12月5日、トニー・エヴァーズ州知事が超党派の法案に署名し、球団のリース契約を2050年まで延長するとともに、州・地元自治体が総額5億800万ドル(うち州が3億6,580万ドル、ミルウォーキー郡・市が6,780万ドル)の公的資金を改修・維持費として拠出することが正式に決まりました。この合意に伴い、球団側も5,000万ドルの改修費負担と、年間2.5万ドルの球場改善基金への拠出が義務付けられています。エヴァーズ知事は「州からの投資がなければ、ウィスコンシン州はMLB唯一の球団を失う危険があった」とコメントしています。
5. 名物「ジョンソンビル・ソーセージ・レース」
球場名物として全米的な知名度を誇るのが、6回表終了後に行われる着ぐるみレース「ファーマス・レーシング・ソーセージ」です。
この企画は1993年6月27日、旧本拠地ミルウォーキー・カウンティ・スタジアムで誕生しました。それ以前からスコアボード上でアニメーションのソーセージがレースをする演出はありましたが、この日初めて実際の着ぐるみが左翼のゲートから飛び出し、選手やファンを驚かせました。グラフィックデザイナーのマイケル・ディロン氏が、アニメ演出を実写の着ぐるみレースへと発展させるアイデアを提案したことがきっかけとされています。
当初はブラートヴルスト、ポーリッシュ、イタリアンの3種類でしたが、1990年代半ばにホットドッグが、2006年には地元のラテン系ファン層の拡大を反映してチョリソが加わり、現在の5種類の体制になりました。
このレース、当初は地元ソーセージメーカーのクレメンツ社がスポンサーでしたが、2021年から現在のジョンソンビル社に交代し、「ジョンソンビル・ソーセージ・レース」という現在の名称になりました。実はジョンソンビル社は1978年から11シーズン、かつて球団の公式ソーセージを務めていた過去もあり、30年のブランクを経て2018年に公式ソーセージの座に復帰、2021年にレースのスポンサーにもなったという、長年の付き合いの延長線上にある関係です。
前述の通り、ジョンソンビル社オーナーのラルフ&シェリー・ステイヤー夫妻は、このレースへの長年の協賛関係などが縁となり、球団の少数株主としても名を連ねています。
6. 名物「扇形開閉式屋根」
この球場最大の特徴は、北米で唯一の「扇形(ファン型)」開閉式屋根です。重量12,000トンの屋根が、一塁側・三塁側から中堅方向へ向けて扇を広げるように連動して動く独特の構造で、開閉にはわずか10分しかかかりません。屋根は地上175フィートの高さに位置しています。
Googlemapからも綺麗な「扇形(ファン型)」が見れます。(Googleマップで見る)
この複雑な機構は維持管理の難しさも抱えており、2006年シーズン終了後には、屋根の可動部分(ボギー・システム)の交換に1,300万ドル超の追加費用がかかっています。
【まとめ】アメリカン・ファミリー・フィールド早見表
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 開場 | 2001年(建設中の事故で1年延期) |
| 収容人数 | 41,900人 |
| 命名歴 | ミラー・パーク(2001〜2020年)→アメリカン・ファミリー・フィールド(2021年〜) |
| 現行命名権 | アメリカン・ファミリー・インシュアランスが15年総額約6,000万ドル |
| 建設費の内訳 | 公的資金66%・球団負担34% |
| 【2023年】リース延長 | 2050年まで延長、追加公費5億800万ドルが決定 |
| 最大の特徴 | 北米唯一の扇形開閉式屋根(重量12,000トン) |
| 名物企画 | ジョンソンビル・ソーセージ・レース(1993年開始、現在5種類) |
個人的には、1999年の事故という重い歴史を経て完成した球場が、その後「北米唯一の扇形屋根」という技術的な誇りとともに親しまれてきた点が印象的です。建設費の3分の2を地域の消費税で賄い、さらに2023年には2050年までのリース延長と引き換えに追加で5億ドル超の公費が投じられるなど、小規模市場球団が本拠地を維持し続けるためのコストの大きさを、この球場の歴史は物語っていると感じます。


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